Starring: my name

ごらんになりましたか

療養と、パリのランデブー

病気をしたもので、療養という名のもとに生活している。コツは、諦めてしまうことだ。してはいけないことがあるとするなら、闘病だ。

病気は、闘って勝てる相手じゃない。そもそも闘うものじゃないのに当座の状態を表すのによく使われる言葉がこれであることが、まことよろしくない。言葉が、よろしくない種類のあれこれを呼び寄せてしまうこともある。乗り越えるだの取り戻すだのは、外から向けられる言葉だ。病気の当人からしたら、病気って自分そのものだから。闘ったり倒したりするようなものじゃない。生きてるだけで精一杯とはいえ頑張るようなものじゃないし、お大事にですらしっくりはこない。

「闘病」に巻き込まれないようにするために、なるべく1人で、静かにさせてくれ。望んだわけでも選んだわけでもないけれど、病気はただそのまま、私のものだ。


例えば「昼間っから暗いところで映画を見ているなんて、なんて非生産的な」などと思ったことがないわけではないけれど、それを最後に思ったのはいつ頃だろう。その頃は、非生産的なことはよくないことだと思っていたってことだろう。さらにもしかしたら、自分が生産的な人間だとでも考えていたってことかもしれない。

そんなことどちらもなくて、まあ、ここにこうしているだけでいい。


簡単なものしか見る気がなくて、適当に昔の少年漫画のテレビアニメをつけてる。たいへん興味があって先の展開が待ちきれないとかではないけれど、それにしたってストーリーが全然進まない。20分かけて一歩二歩進んだかどうか。原作に追いつかれるのを恐れすぎて回想用いた足踏みばかりが目立つんだけど、まあなんか、それでもいい。電源をつければ、その世界がいつでも広がっているというのはよいものだ。


パリのランデブーを見た。エリックロメールの、カラーの。ワンピースにカーディガン羽織って。カフェや公園、美術館。1995年だから70代も半ばなのか。これぞパリ、という感じの切り取り方で、自分が旅行してるみたいなデートだった。変な大道芸のアコーディオンの曲で分けた、3つの浮気未満の話。どの女もそうそう自分を手放さない、むしろ別れるときにがっつり自分を出してくる女たちだから、安心してられる。恋の取り扱いが軽妙で、うんざりさせない。

旅に、出たい。過去の自分の旅行を重ねて見てた。ヨーロッパの街並みに埋もれたい欲が、この感染症のご時世で抱えさせられたままになっている。